２ この香りあの日に焼べた（くべた）終章画梔子白しいま甘いだけ
３ パチンと飛ぶわが爪のように柵（しがらみ）を小気味よく切れ！ 贅肉も添えて
４ きょうこそは君の心を射ぬきぬと マスカラを手に黒々と研ぐ
「あの子には僕が必要」などと言う 十九の西瓜ザックリと切る
大風に向かいて廻る観覧車 君と僕との棺となりて
５ 夏の日の夢か現実( うつつ) かいまだみぬあなたのためのうしろめたさよ
６ 熱風に歪む国道で君を想う親不知の痕鈍く疼いた （二席）
７ タメ息のよに名を呼ぶね 明け方の受話器の君の声なぞりおり
８ 国道に 向日葵らんらん 蝉ミンミン
「あぁ！」白い足バタバタ 僕見てました （一席）
９ ニュートリノ浴衣の少女ら貫通ししんしんと濃ゆくなる夏祭り
１０ 彦星よともしきかもなわたつみのそきへのきはみ吾恋渡る
ポローニャの妹にしあれどあかねさすしみ野の人のひれこそふりぬれ
１１ ループ （三席）
かなしい気分はどこへ消えた？
チンゲンサイの葉を一枚ずつ剥がし、
最後に小さな偶像を見つけてそれっきり。
さみしい気分はどこへ消えた？
風にはこばれてやってきた乾いたニオイを
多い昔に嗅いだことがある気がしてそれっきり。
ああ、
神聖でなつかしい気分だ。
神聖な気分はどこへ消えた？
残酷な想像にとりつかれ、
朝まで眠れずそれっきり。
なつかしい気分はどこへ消えた？
記憶の物語をかたることに飽き、
恥じ、悔いてそれっきり。
ああ、
かなしくてさみしい気分だ。
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第九回 詠草
