第十六回 詠草 
第十五回 西千葉短歌会詠草
世話人＝三浦 佑之 （ＭＩＵＲＡ Ｓｕｋｅｙｕｋｉ）
２００３年５月２９日、何人かの新人を迎え、楽しく短歌会を開きました。
例によって、詠草です。ご鑑賞ください。
１ 帰り来て桜吹雪の薄紅や彼の地に散りし血しぶきを問ふ
路の面 (も) の木影の葉影ゆらゆらに春はゆらりと行きにけらしも
良寛を今に気どれどあなむなし茶髪ちまたにかの尼見ねば
良寛は霞の奥の奥なればせめては眺めむ春の夕映え
阿古屋なる玉三郎を箏 （そう） の音を見つつ聞きつつ君へ歌詠む
春香と阿古屋のさばきに見ゆるらしからのことわりやまとのなさけ
２ しんしん夜の路地裏にどこかで拍手が湧いてたよ 君に会いたい 一席
３ かつて高下駄を鳴らせし蛮カラが行き暮れる御代たいらかならず
４ 走る窓あの日のままの彼を見た記憶は戻りタイヤは進む
５ 陽だまりで 丸まり眠る 黒猫は まぶたの奥に 光を集めて
６ 降り立ちて 久方振りの 陽光に 炙りだされる 彼の日の記憶
菜を切る 母を横目に 水を飲む ざらつく暑さは 心なごます
くゆる煙を 眺めては 吾が根に 思いを馳せる
足下（あしした） の海よ 私に届きれ 私があなたを 忘れぬよう
７ ビビビビとファックス届く 「初めての…」 少し大きな母の字ゆらり 二席
「あれほんと、入っていかんす」 おばあちゃんは紙にも敬語と無紙無声便
８ 哀しい葉つぱ嬉しい葉つぱ渦まきてキャベツはキャベツであるなり五月
紋白蝶をあづけられたるキャベツありて夢にほのぼの飛ぶこともある
キャベツの思索キャベツの思想ずつしりと一列にみな陽をあびてをり
自爆したきキャベツぴりつと割れてをり戦争がひとつ終はれる闇に
梅雨に入る世界ほのかに液化して怒れるキャベツまた太りたり 三席
９ 新しき店開 (あ) き前の店忘る記憶 (かこ) は寂しと君が微笑む
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