紹介「柳田国未採択昔話聚稿」（三浦佑之）

野村純一編著『柳田國男未採択昔話聚稿』
（瑞木書房　2002年）

『口承文藝研究』 26号　日本口承文藝学会　2003年３月

三浦佑之　（ＭＩＵＲＡ　Ｓｕｋｅｙｕｋｉ）

「柳田國男あるいはその近辺のひとびとの手元に留め置かれ、その後も公開の機を得られぬまま」にあった昔話群をまとめた貴重な資料集である。本書に収められているのは、三谷栄一・牧田茂・岩倉市郎など民俗学・伝承文学研究の大御所から各地の無名の人々まで、およそ七十名余り。資料が公刊されなかった事情はさまざまにあろうし、収められた昔話は玉石混淆といってよかろう。しかし、どれが玉でどれが石かという判断は、本書に収められた資料群に向き合うわれわれ一人一人に委ねられているのではないかと思う。
　資料の提供者たちを丁寧に追跡した百頁もの「註解ノート」や詳細な索引を加えると九百頁を越す大冊から、われわれは何を手に入れることができるのか、その作業は今後の研究を待つしかない。「お互い、もう一度原点に立ち返って、しっかり勉強し直すこと、それよりほか無いのではないか」という野村の「あとがき」の一節はとても重いが、本書によって示された未知の森は豊かな可能性を秘めて広がっている。