１８．ポーラ・アンダーウッド著 『一万年の旅路』 　（星川純訳／翔泳社 1998) 三浦 佑之　（ＭＩＵＲＡ　Ｓｕｋｅｙｕｋｉ）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(『口承文芸研究』22号 1999.3)



　とにかく面白く、五〇〇頁を越す長編を一気に読んだ。ネイティブアメリカン・イロコイ族の末裔である著者が、父が祖父の祖母から伝えられた一族の歴史を文字化したものという。内容は、約一万年前に、大災害を逃れてユーラシア東部の居住地から、崩壊直前のべーリング陸橋を越えてアメリカ大陸に渡り、ロッキー山脈沿いに南下し、草原を渡ってオンタリオ湖畔の定住地に到るという、とてつもなく壮大な放浪と巡行の叙事詩である。韻律的な詞章による伝承を英語に翻訳したらしいが、日本語版では散文になっている。口承伝承が一万年の時間を超えるかという疑問は当然のこととして生じるが、そうした疑いを無化してしまうような内容に引き込まれる。そこに語られるのは、苦難に満ちた旅の連続だが、何より興味深いのは、彼らが苦難に直面した時、遠い未来の子孫たちにとって何が正しい選択であるかということを一族の者すべてが議論し決定していくことである。とにかく一読をお勧めしたい。


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